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伝説のスピーチ


 7月7日から三日間の日程で開催された北海道洞爺湖サミットが終わりました。サミットが終わってまだ一ヶ月も経っていませんが、今回のサミットの印象が急速に薄れているように思えます。

 サミットから一週間後の7月14日、スマップの木村拓哉が朝倉総理役で主演したテレビドラマ「CHANGE」が最終回を迎えました。現職の福田総理とドラマ上の朝倉総理の比較がニューヨークタイムズ紙で取り上げられるなど話題性のあったドラマでした。ご覧になった方も多かったのではないかと思います。

 テレビドラマ「CHANGE」最終回のハイライトは、わずか50日間で内閣総理大臣の辞任に追い込まれた朝倉総理がテレビ中継の形で国民に語りかける場面です。そしてスピーチの最後に衆議院の解散と総選挙を宣言し、再び地元に戻り、一候補者として衆議院議員選挙に立候補したところでドラマは終わりました。

環境サミットと呼ばれたが

 北海道洞爺湖サミットの主要テーマは4つありました。「世界経済」「環境・気候変動」「開発・アフリカ」「政治問題」です。これらのテーマの中でサミット議長国である日本としてその準備に一番力を入れ、また成果を期待したのが「環境・気候変動」でした。

 環境・気候変動のテーマで採択された長期目標は「G8は、2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%削減を達成する目標を、地球温暖化防止条約のすべての締約国と共有し、採択することを“求めることで合意”した」と発表されました。このサミット宣言に対して、昨年のサミットから後退しているのではないかとの批判が多く出されました。私もそう思います。

 昨年ドイツのハイリゲンダムで開催されたサミット宣言は「2050年までに地球規模での排出を少なくとも半減させることを含む、EU、カナダ、及び“日本による決定”を真剣に検討する。」とはっきり日本の立場を反映したものとなっていましたが、今回のサミット宣言はなんとも歯切れの悪い表現です。

官僚的な表現では伝わらない

 今回のサミット宣言の文章は、いわゆる官僚的表現の代表と言えるものではないでしょうか。官僚的な表現とは、「一読しただけでは何を言っているのか良く分からない」ことが特徴です。国際会議の場で立場の異なる国家間の話し合い結果を共同声明の形でまとめるためどうしても官僚的表現にならざるを得ない事情は分かります。しかし、官僚的な表現では、我々国民一人ひとりの心が揺さぶられるようなことはありません。

 官僚的な表現に加えてサミットの成果を国民に伝える役割を持った福田首相の演説スタイルも今回のサミットの印象が殆ど残らない要因のように思えます。今回のサミットで何をやり遂げようとしたのか、そしてその狙いは達成できたのか、これらがはっきりしないのです。「首相の仕事」でも述べましたが、これではサミットにおいて議長としての仕事が出来たのか否かが分からないまま壮大なセレモニーが終わっただけということになってしまいます。

 私がまだ中学生の時、二つの有名な演説が生まれました。ケネディー大統領とキング牧師による演説です。ケネディー大統領は1961年の就任演説で述べた「祖国があなたに何をしてくれるかを尋ねてはなりません、あなたが祖国のために何をできるか考えて欲しい」と言って当時の若者の心をつかみました。そして1963年、公民権運動中心人物であったキング牧師が、リンカーン記念堂の前で有名な「I Have a Dream(私には夢がある)」で始まる演説を行い、世界中の人々の心を揺さぶったのです。

環境問題は古くて新しい問題

 今回の洞爺湖サミットで最重点とも言える環境問題は今始まったことではありません。民間のシンクタンクであったローマクラブが1972年に「成長の限界」という報告書を発表しました。報告書は、「現在のままで人口増加や環境破壊が続けば、資源の枯渇や環境の悪化によって100年以内に人類の成長は限界に達する」と警鐘を鳴らしました。しかし、この警鐘が国際社会の動きを直ちに変えることにはなりませんでした。

 国際機関が初めて環境問題を取り上げたのが1992年ブラジルのリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議」、通称「地球サミット」と呼ばれたものだと言われています。この地球サミットには、ほぼすべての国際連合加盟国の代表(注)が参加し、のべ4万人を越える人々が集う史上最大規模の国際会議となりました。
 (注)日本の首相は国内問題のためとして欠席

 この地球サミットが、さまざまな地球環境問題や生態系の絶滅危惧種等に対する一般の関心が高まる契機ともなったといわれています。つまり36年前のローマクラブが鳴らした警鐘から、問題解決への取り組みが国際レベルで議論され始めるまで20年も費やされたことになります。

12歳少女のスピーチが伝説となる

 14日間に渡って開催されたリオの地球サミット最終日、本会議場の演壇に一人の少女が立ちました。少女の名前はセヴァン・スズキ(Severn Suzuki)、カナダからきた12歳の日系4世です。

 セヴァンは大勢の大人の会議参加者を前に6分半を超えるスピーチを堂々と行い、このスピーチを聞いた人々の心を揺さぶったのです。やがて彼女のスピーチは「リオの伝説のスピーチ(Legendary Speech in Rio)」と呼ばれることになります。  セヴァンと環境学習を行っていた仲間の子ども達は、リオで地球環境の将来を決める会議が開かれることを知り、「子どもこそその会議に参加すべき」と、費用をため、リオへ出向いたのでした。そしてNGOブースでのねばり強いアッピール活動が実を結び、サミット最終日に子ども代表としてスピーチするチャンスを得たのです。

 彼女は訴えます、「オゾン層に開いた穴をどうやってふさぐのか、あなたたちは知らないでしょう。死んだ川にどうやってサケを呼び戻すのか、あなたたちは知らないでしょう。絶滅した動物をどうやって生き返らせるのか、あなたたちは知らないでしょう。今や砂漠となってしまった場所にどうやって森をよみがえらせるのか、あなたたちは知らないでしょう。」そして続けます、「どうやって直すのか分からないものを、壊し続けるのはもう止めて下さい。」と。

 セヴァンのスピーチはそれを聞いていた大人の驚きと大きな拍手を沸き起こしました。12歳の子どもが語った内容ですから、何ら難しい言い回しや単語を使っているわけではありません。しかし、だからこそ聴いている人の心を揺さぶったのだと思います。

 心を揺さぶるスピーチに共通しているのは簡潔な文体と平易な言葉で訴えかけてくるものです。さらに、将来に向かっての希望と希望を実現する勇気を与えてくれるものなのです。複雑な表現と分かりにくい単語をちりばめた官僚的表現とは対極をなすものといってもよいでしょう。

大切なのは希望を共有化すること

 キング牧師のスピーチもセヴァン・スズキのスピーチもそれを聞いた人々の心を揺さぶっただけではありません。すぐには結果に結びつかないまでも、心を揺さぶられた人々の思いが時を経て次第に世界を変えていくことにつながりました。

 木村拓哉演じる朝倉総理は、最後のスピーチの中で衆議院の解散総選挙を決断した理由をこう述べていました、「自分が見てきた政治の世界は皆さんが思っているほど見捨てたものではない、政治が国民の目線で動けばきっとより良い世の中に変えられる」と希望を述べ、その希望実現のため、国民の真意を問う選挙を決断したのだと。

 FP相談では、心を揺さぶるスピーチの出番はありません。しかし、クライアントの抱える問題解決の先にある「希望」を共有化できるかが重要になってきます。将来の希望を共有化するためには、クライアントの分かる言葉で話し、クライアントの納得する問題の定義を見つけられるかが鍵となります。これらのベースにあるのはまさしくコミュニケーション能力そのものなのです。

〔補足〕
高校1年生向けの英語の教科書、桐原書店のPro-Visionで「Legendary Speech in Rio」が取り上げられています。スピーチの全文はこちら(英文日本文


 '08.7.22  木下 利信